『当たり前』って違うんだ パートナーと穏やかに違いを理解し合うワーク
子供たちが独立し、パートナーと二人で過ごす時間が増えたという方もいらっしゃるかもしれません。これからの人生を共に楽しく、心地よく過ごすために、改めてお互いの関係を見つめ直したいとお考えになることもあるでしょう。
長年一緒にいると、お互いのことがよく分かっているように感じがちです。しかし、実はそれぞれが「当たり前」だと思っていることには違いがあり、それが無意識のうちに小さなすれ違いや、言葉にならないモヤモヤの原因になっていることも少なくありません。
この「当たり前」の違いに気づき、お互いを理解し、尊重する姿勢を持つことは、今後の二人の時間をより豊かにするための大切な一歩となります。この記事では、パートナーと穏やかに「当たり前」の違いを理解し合うための、自宅で簡単にできるワークをご紹介します。
なぜ「当たり前」の違いを知ることが大切なのか
私たちは、育った環境や経験、価値観によって、それぞれ異なる「当たり前」を持っています。例えば、「使ったものは元の場所に戻すのが当たり前」という人もいれば、「後でまとめて片付ければ大丈夫」という人もいるでしょう。
若い頃はお互いの違いも新鮮に映ったり、気づかないふりをしたりできたかもしれません。しかし、共に過ごす時間が長くなるにつれて、この小さな「当たり前」の違いが、お互いへの不満や期待外れに繋がりやすくなることがあります。
お互いの「当たり前」を知ることは、「あなたにとってはそうなんですね」と相手の立場や考え方を理解するきっかけになります。それは、相手を変えようとするのではなく、お互いの違いを認め、どうすれば二人が心地よく過ごせるかを共に考えるためのスタート地点となるのです。
パートナーと穏やかに違いを理解し合うワーク
ここでは、お互いの「当たり前」を発見し、穏やかに話し合うための二つのワークをご紹介します。特別な準備は必要ありませんので、リラックスできる時間を選んで、ぜひパートナーと一緒に試してみてください。
ワーク1:お互いの「当たり前」発見リスト
このワークでは、まずお互いが普段「当たり前」だと思っていること、無意識にそうしていることなどをリストアップしてみます。
- 目的: 自分自身の「当たり前」を再認識し、パートナーの「当たり前」に気づくきっかけを作る
- 必要なもの: ノートまたは紙、ペン
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具体的な手順:
- 準備: パートナーと二人で、静かにじっくり考えられる時間と場所を確保します。それぞれ紙とペンを用意してください。
- リスト作成(15分〜20分程度):
- 各自で、日常生活の中で自分が「これは当たり前だ」「こうするのが普通だ」と感じていることや、無意識にしている行動を思いつくままにリストアップします。
- 難しく考えず、「朝起きたらまず顔を洗う」「食事の前には手を洗う」「トイレットペーパーがなくなったら補充する」「連絡があったらすぐ返す」「靴は揃えて脱ぐ」「使い終わったものは元の場所に戻す」「電気はこまめに消す」など、どんな小さなことでも構いません。
- 家の中のことだけでなく、外出先での行動や、人との関わり方に関する「当たり前」でも良いでしょう。
- リストの交換と閲覧(10分程度):
- 各自のリストが完成したら、お互いのリストを交換し、静かに読みます。
- 相手のリストを見て、「へえ、これは当たり前なんだ」「これは自分とは違うな」と感じる点に注目してみてください。すぐにコメントしたり質問したりする必要はありません。まずは相手の世界を覗いてみるような気持ちで読んでみましょう。
- 話し合い(時間の許す限り):
- お互いのリストを読み終えたら、話し合いの時間に移ります。
- お互いのリストで気になった点や、「これはどういうこと?」「なぜそう思うの?」と質問したい点について、穏やかに尋ねてみましょう。
- 自分のリストについて話すときは、なぜそれが自分にとって「当たり前」なのか、いつ頃からそうしているのか、それに対する自分の気持ちなどを、相手を責めるのではなく、自分の話として伝えます。(例:「私は子供の頃から、使ったものはすぐに片付けるように言われて育ったから、そうしないと落ち着かないみたいです」)
- 相手の話を聞くときは、すぐに自分の意見を挟まず、まずは「理解しよう」という姿勢で耳を傾けましょう。相手の言葉の背景にある考えや気持ちに思いを馳せてみてください。
- リストにある全ての項目について深く話す必要はありません。お互いが「話してみたい」「聞いてみたい」と感じた点について、自然な会話の流れで話してみましょう。
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期待される効果:
- パートナーの意外な一面や考え方に気づくことができます。
- お互いの「当たり前」の違いが、これまでの小さなすれ違いの原因だったかもしれないと気づくことがあります。
- 会話のきっかけが増え、お互いへの理解が深まります。
ワーク2:違いを尊重する優しい伝え方練習
お互いの「当たり前」が違うことを知ったら、次はそれによって生じる「ちょっと気になること」や「お願いしたいこと」を、相手を傷つけずに伝える練習をしてみましょう。
- 目的: 相手の行動や習慣について、自分の気持ちや要望を穏やかに伝える練習をする
- 必要なもの: 特になし(必要であれば、伝えたいことをメモする紙とペン)
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具体的な手順:
- 準備: ワーク1を踏まえて、お互いの「当たり前」の違いからくる「こうなったら嬉しいな」と思うことや、少しだけ気になることを、具体的に一つか二つ心の中で整理しておきます。相手の性格や行動を非難する形ではなく、「私はこう感じている」「私はこうしたい」という視点で考えます。
- 「私メッセージ」で伝える練習:
- パートナーと向き合って、準備したことを伝えてみます。その際、「あなたはいつも〜だ」「なんで〜してくれないの」のように相手を主語にして責める形ではなく、「私は〜と感じる」「私は〜したい」という「私(I)メッセージ」を使うことを意識します。
- 例えば、「脱いだ服を床に置かないで!」ではなく、「床に服があると、私は少し散らかっているように感じて、どうしたら良いか迷ってしまうの」のように伝えてみます。
- あくまで「練習」です。完璧に伝える必要はありません。言葉に詰まっても大丈夫。「練習だから、ちょっとうまく言えないかもしれないけど聞いてくれる?」と前置きしても良いでしょう。
- 穏やかに受け止める練習:
- 今度は、パートナーからのメッセージを穏やかに受け止める練習です。相手が何かを伝えようとしているときは、まず「聞くこと」に集中します。
- すぐに反論したり、「でもあなたは〜でしょ」と言い返したりするのを一旦お休みして、「相手は何を感じていて、何を伝えたいのだろう?」という気持ちで耳を傾けます。
- 内容に同意できなくても構いません。まずは「相手がそう感じているんだな」「相手はそう考えているんだな」と受け止めることが大切です。「話してくれてありがとう」と感謝を伝えることも有効です。
- 練習についての話し合い:
- お互いに伝えたり聞いたりする練習を終えたら、今回の練習について感想を話し合ってみます。
- 「こういう風に伝えてみたら、自分はこういう気持ちになった」「相手からこういう風に言われたら、こう感じた」など、率直な感想を分かち合います。
- 「伝えるのは難しかったけど、練習してみて良かった」「聞くことに集中するのは大変だったけど、相手の気持ちが少し分かった気がする」など、今回のワークで気づいたことを話し合うことも、お互いの理解を深める助けになります。
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期待される効果:
- 自分の気持ちや要望を、相手を傷つけずに伝えるスキルが少しずつ身につきます。
- パートナーからのメッセージを、感情的にならずに受け止める練習になります。
- お互いの違いから生じる問題を、感情的な対立ではなく、建設的な話し合いで解決するための土台ができます。
ワークを行う上でのヒントと注意点
- 完璧を目指さないでください: これらのワークは、一度行っただけで全てが解決する魔法のようなものではありません。まずは「試してみよう」という軽い気持ちで取り組むことが大切です。
- 義務にしないでください: ワークは、二人の関係をより良くするためのツールです。やらなければいけない義務だと感じてしまうと、かえって負担になる可能性があります。二人とも「やってみようかな」と思えるタイミングで行いましょう。
- 批判せず、受け止める姿勢を大切に: 特にワーク1の話し合いやワーク2の伝える練習では、相手の言葉や考え方を否定したり、批判したりしないことが非常に重要です。「そういう考え方もあるんだな」と、まずは受け止める姿勢を心がけてください。
- 一度に多くのことを扱わない: 最初は、話し合うテーマや伝えたいことを一つか二つに絞るのがおすすめです。一度にたくさんのことを話そうとすると、混乱したり疲れてしまったりする可能性があります。
- リラックスできる環境で: ワークは、できるだけ二人が落ち着いてリラックスできる時間帯や場所で行いましょう。焦っている時や疲れている時には、うまく進められないこともあります。
まとめ:違いを知ることは、より心地よい未来への第一歩
長年連れ添ったパートナーとの関係は、時間をかけて育まれていくものです。子供が独立し、二人の時間が増えた今だからこそ、お互いの「当たり前」の違いに目を向け、理解し、尊重し合うことは、今後の二人の人生をより心豊かなものにするための大切な鍵となります。
今回ご紹介したワークは、そのための小さな一歩です。お互いの違いを知ることは、時に驚きや発見をもたらし、また時には「なぜだろう?」と疑問を感じることもあるかもしれません。しかし、そこで感情的に反応するのではなく、「あなたにとってはそうなんですね」と穏やかに受け止めることから、新しい関係性が生まれます。
これらのワークを参考に、ぜひパートナーと二人で、お互いのことをもっと知り、違いを尊重し合える関係を築いていってください。そうすることで、これからの二人の時間が、より温かく、心地よいものとなることを願っています。